
10 4月 スペインにおける富の迷宮:大富裕層向け税と資産税
スペインにおける富裕税は、かつては分散したルールの集合体でしたが、現在では「国内どこに居住していても大規模資産に対して最低限の課税を保証する」という考え方に基づいた、複雑ながらも体系化された二重構造へと発展しています。
現在、個人の純資産に対して課される税は主に2つあります。
それが「資産税(Impuesto sobre el Patrimonio, IP)」と「大富裕層連帯税(Impuesto Temporal de Solidaridad de las Grandes Fortunas, ITSGF)」です。
これらは独立して機能するのではなく、相互に調整されながら課税が行われます。この関係性を理解することが、実際の税負担を把握するうえで非常に重要です
1. 「資産」とは何か、なぜ課税されるのか
まず課税対象を明確にする必要があります。
「資産」とは、不動産、銀行預金、金融投資、美術品や宝飾品、企業持分など、経済的価値を持つ財産および権利の総体を指します。
国家は、資産を保有すること自体が「支払い能力(担税力)」を意味すると考え、それに応じた課税を行います。ただし、この負担は2つの制度を通じて複雑に構成されています。
2. 各税制度の仕組み
資産税(IP)
これは国税ですが、自治州に委譲されている税です。そのため、各地域が非課税枠、税率、控除などを独自に設定できます。
その結果、居住地によって税負担は大きく異なります。例えば、非課税枠はアラゴン州では40万ユーロ、カタルーニャ州では50万ユーロ、バレンシア州では100万ユーロに設定されています。さらに、主たる居住用不動産の一部非課税などの優遇措置も存在します。
大富裕層連帯税(ITSGF)
当初は一時的な措置でしたが、2022年以降、事実上恒久的な国税として機能しています。その目的は、スペイン全土で最低限の実効税率を確保することです。
純資産が370万ユーロ(課税ベース300万ユーロ+非課税枠70万ユーロ)を超える場合に適用されます。
二重課税なのか?
この2つの税は二重課税を避ける仕組みになっています。
実務上は、各自治州で支払った資産税(IP)がITSGFから控除されるため、ITSGFは「不足分のみ」を補う形になります。
そのため納税額の総額はほぼ同じですが、税収の帰属先と制度設計が異なります。

3. 所得税(IRPF)と資産税の合算上限
重要なルールとして、「所得税(IRPF)と資産税の合計上限」があります。
これは、IRPFとIPの合計が、IRPFの課税所得の60%を超えてはならないというものです。
もし超過した場合、資産税が最大80%まで減額され、最低でも資産税の20%は支払う必要があります。
例えば、課税所得が10万ユーロの場合、合計上限は6万ユーロです。IRPFとIPの合計がこれを超える場合、資産税が調整されます。
4. 2026年における非居住者への変更点
最近の変化は法律そのものよりも「解釈」に関するものです。
スペイン最高裁判所(2025年10月29日判決および11月3日判決)は、非居住者(スペインに資産を持つが国外在住者)にも、所得と資産の合算上限ルール(資産税法31条)を適用できると判断しました。
これにより、これまで存在していた不利益な取り扱いが是正されました。
さらに、この考え方はITSGFにも拡張されています。
結果として、非居住者は実効税率を下げることが可能となり、未時効の申告について修正申告を行う余地や、国際的な税務プランニングの重要性が高まっています。

5. 税務プランニングの戦略
大規模な資産においては、税負担は避けられない固定費ではなく、設計可能な変数です。主に以下の3つの要素が重要です。
- 実態のある事業活動を行うファミリービジネスの持分は、100%非課税となる可能性があります。最高裁判例により要件は緩和され、一定の現金保有も、投資戦略の一環であれば認められるようになっています。
- 資産税は純資産に課税されるため、投資のための負債は課税ベースを減少させます。これは単なる借入ではなく、資本構造の設計の問題です。
- IRPFと資産税の合算上限を活用し、所得の繰延、長期キャピタルゲイン化、企業再投資などを行うことで、総合的な税負担を軽減できます。
税務プランニングの重要性
スペインの税制は、単純な居住地変更だけでは回避しにくい「最低課税保証型」へと変化しています。
資産を成長させるか、税負担で目減りさせるかの分岐点は、事前の設計にあります。
Navarro Llima Abogadosでは、各資産が本来の目的を果たしつつ、過剰な税負担を避けるためのサポートを提供しています。
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