
04 8月 法務顧問弁護士(Letrado Asesor)の役割
企業統治(コーポレート・ガバナンス)の高度化を目的とした「取締役を兼任しない会社秘書役(Secretario no consejero)」に関する前回のブログに続き、Navarro Llima Abogadosでは、近年あまり注目されることはないものの、一定の場合には現在も法令上その選任が義務付けられ、かつ企業経営において極めて有益な役割を果たす制度についてご紹介します。それが**法務顧問弁護士(Letrado Asesor)**です。
法務顧問弁護士(Letrado Asesor)とは何か
この制度を理解するためには、まず**1975年10月31日法律第39号(Ley 39/1975)**の前文を参照することが有益です。同法は法務顧問弁護士の選任について定めており、その趣旨として次のように述べています。
「大多数の株式会社その他の商事会社は、その経営機関または管理機関において法的助言を受けている。しかし一方で、そのような助言を欠く会社では、現行法令に対する理解不足から不適切な決議が採択され、その結果として不要な訴訟や紛争に発展する事例も少なくない。
このような状況を踏まえ、弁護士職一般規程(1946年6月28日政令)第3条の趣旨に従い、企業活動の適正な法的運営を確保するため、一定の会社については、その経営機関又は管理機関に所属する弁護士を選任することを義務付けるものである。
また、『法務顧問弁護士(Letrado Asesor)』という呼称を採用したのは、法的助言以外の職務を担う会社秘書役(Secretario)と区別するためであり、本法が会社のあらゆる業務について包括的な法律顧問の設置を義務付ける趣旨ではないことを明確にするためである。」
以上から明らかなように、法務顧問弁護士制度は、一部の会社において不足している法的助言機能を補完することを目的として創設された制度です。
この役割は本質的に**予防法務(preventive legal advice)**にあります。すなわち、企業活動の過程で法的リスクを未然に把握し、企業の意思決定や組織運営を適切に構築することで、日常の事業活動から生じ得る紛争を可能な限り防止することを目的としています。この考え方は、近年コンプライアンス体制の重要性が急速に高まっていることとも軌を一にしています。
したがって、法務顧問弁護士とは、弁護士会に登録された現役弁護士であり、会社によって正式に選任され、その会社の取締役会その他の経営・管理機関(その組織形態を問いません)に対して、決議、意思決定及び業務執行の適法性について助言を行う者をいいます。
また、その専門的関与は会社の議事録その他のコーポレート・ドキュメントに適切に記録されなければなりません。これは、適用法令を十分に考慮しないまま意思決定が行われることによって、取引の安全や法的安定性が損なわれることを防止するためです。
有用性
前述のとおり、法務顧問弁護士の選任は一定の場合には法律上義務付けられています(その要件については後述します)。しかし、この制度の価値は、単なる法的義務として捉えるべきものではありません。
仮に法令上その選任が義務付けられていなかったとしても、適切なコーポレート・ガバナンスと秩序ある企業運営を目指すすべての企業にとって、法務顧問弁護士は極めて有意義な存在です。その役割は法令遵守にとどまらず、企業経営そのものに付加価値をもたらします。
第一の利点は、継続性にあります。
多くの企業では、売掛金の未回収、契約違反、瑕疵担保責任その他の法的問題が発生して初めて弁護士へ相談する傾向があります。しかし、その時点では既に問題が顕在化しており、取り得る選択肢は限られてしまいます。
これに対し、法務顧問弁護士は日常的かつ継続的に企業の意思決定へ関与し、その事業内容や経営方針を深く理解しています。そのため、法的リスクを事前に把握し、多くの問題を紛争へ発展する前に未然に防止することが可能となります。
第二の特徴は、その職務範囲に柔軟性が認められていることです。
1975年法律第39号は、会社の定款により、法務顧問弁護士へ法定の職務を超える追加的な権限を付与できることを認めています。
法律上必須とされる職務は、経営機関が行う決議及び意思決定の適法性について助言することに限定されています。しかし、企業の実情に応じてその職務範囲を契約上拡張することは極めて有益です。
例えば、取引先企業が倒産手続(破産・会社更生・民事再生等)に入った場合、法務顧問弁護士に対し、単なる法的手続の状況だけではなく、その企業の実質的な経営状況や信用リスクについても助言を求めることが考えられます。
このような助言は法律上義務付けられた職務には含まれませんが、企業にとって重大な経済的損失や法的リスクを回避するうえで非常に大きな価値を有します。
第三に、本ブログの「取締役を兼任しない会社秘書役」に関する記事でも述べたとおり、法務顧問弁護士は企業経営の専門性・客観性を高める役割を果たします。
これは、とりわけ**ファミリービジネス(同族会社)**において重要です。家族関係と会社経営との境界が曖昧になりやすい環境では、個人的な利害と会社としての利益が混同されることがあります。
独立した立場から法的助言を行う法務顧問弁護士の存在は、そのような緊張関係を緩和し、より客観的かつ適正な意思決定を促すことにつながります。
法務顧問弁護士の選任が義務付けられる場合
法務顧問弁護士の選任義務は、1975年法律第39号第1条に規定されており、スペイン国内に本店を有する会社と、外国法人とで要件が区別されています。
スペイン国内に本店を有する会社
次のいずれかに該当する場合には、法務顧問弁護士を選任しなければなりません。
- 資本金が 300,506.05ユーロ以上であること。
- 通常の年間売上高が 601,012.10ユーロ以上であること。
- 常時雇用する従業員数が 50名を超えること。
外国法人
外国法人については、次のいずれかに該当する場合に選任義務が生じます。
- スペイン国内の支店における年間売上高が 300,506.05ユーロ以上であること。
- スペイン国内で常時雇用する従業員数が 50名を超えること。
なお、これらの金額基準は1975年の制定以来改正されておらず、現在の経済状況に照らすと比較的低い水準となっています。そのため、実務上はあまり注目されることのない制度となっている一方で、法的には依然として多くの企業がその適用対象となり得ます。
法務顧問弁護士を選任しなかった場合の法的影響
法務顧問弁護士の選任が法律上義務付けられている場合であっても、その選任を怠ったことのみを理由として、経営機関が採択した決議が当然に無効となるわけではありません。実際、1975年法律第39号は、そのような法的効果を規定していません。
もっとも、同法は、この義務違反が取締役等の責任に関する訴訟または手続において明示的に考慮されるべき事情であることを定めています。そのため、将来的に役員責任が争われる場面では、法務顧問弁護士を選任していなかった事実が会社側に不利な事情として評価される可能性があります。
この点は、スペイン会社法(Ley de Sociedades de Capital)第226条に**ビジネス・ジャッジメント・ルール(Business Judgment Rule)**が導入されたことにより、さらに重要性を増しています。
同条は、経営判断が保護されるためには、経営機関が十分な情報に基づき、適切な意思決定手続を経て判断を行ったことを要件としています。
この観点からすると、法務顧問弁護士の関与は、経営機関が法令に従って適切に行動したことを裏付ける重要な保証となるだけでなく、取締役が善管注意義務および忠実義務を尽くしたことを立証するうえでも、有力な証拠として機能します。
今日の企業実務においては、この制度は以前ほど注目されなくなっています。その一因として、法律が定める資本金や売上高の基準が制定当時のままであり、現在の経済環境との間に乖離が生じていることが挙げられます。
しかしながら、そのような事情にもかかわらず、法務顧問弁護士制度は依然として優れたコーポレート・ガバナンスを支える重要な仕組みであり続けています。
法務顧問弁護士を選任することにより、経営機関はより高い法的安定性と意思決定の信頼性を確保することができます。とりわけ、経営の専門性と客観性の確保が重要となる**ファミリービジネス(同族会社)**において、その意義は極めて大きいといえます。
Navarro Llima Abogadosでは、お客様の会社が法律上の選任義務の対象となるかを個別に検討するとともに、法務顧問弁護士の選任手続、定款への適切な反映、その後の実務運用まで一貫してサポートしています。
また、当事務所の弁護士が**外部法務顧問弁護士(External Legal Adviser to the Board)**として直接その職務を担い、お客様の組織におけるコーポレート・ガバナンス体制の構築・運用を継続的に支援することも可能です。
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